Tokyo Techiesが伴走します
2025年、AI技術は私たちの生活とビジネスを根底から変革し、特にAIによる自動化と効率化は、ITと人間の新たな関係を築く鍵となります。
本鼎談では、AI時代の到来を見据え、人間中心のITの未来像について、各分野をリードする2名をお招きし議論しました。
かんぽ生命の早瀬様、博報堂DYホールディングスの森様、そして当社CEOのドゥックが、AIの現状と課題、そして未来のIT開発における「人間らしさ」の重要性について、多角的な視点から考察しました。
AIが社会に浸透する中で、ITはいかに人々の生活に寄り添い、豊かな未来を実現するのか。テクノロジーが拓く新たな可能性を探った鼎談の一部をご紹介します。
――本日はお越しいただきありがとうございます。
早速ですが、早瀬さんの現在の役割や取り組みについてお聞かせください。
早瀬
執行役員IT企画部・IT管理部・DX戦略部の執行役補佐として、プロジェクトレビュー、働き方変革などが主な担当範囲です。
――かんぽ生命ではどのようにデジタル活用を進めているのでしょうか?
早瀬
当社は古いレガシーシステムも多く抱えているのですが、ここ3~4年ではお客さまの体験を良くする、いわゆるCX(カスタマーエクスペリエンス)を向上させていくための活動が急ピッチで進んでいます。
一例としてはペーパーレス化によるCXの向上です。当社では、保険の申込書類などの多くは紙に記入していただいていました。ところが、コロナ禍もありリモートワークも浸透し、お客さまもデジタルを利用することが普通のこととなりました。そうなると、窓口にいらっしゃったときに紙にいちいち書いてもらうのは手間だと感じられてしまいます。
手書きで書いた内容に間違いがあれば、後でもう一度記入し直してもらう必要もあります。これまでのやり方はお客さまのCXに改善の余地があったといえるでしょう。
早瀬
保険ビジネスでは、保険料をお預かりし、病気やけがなどがあれば保険金や給付金をお支払いするというのが最も基本であり重要なサービスです。
これまでお客さまからご連絡を受けてから保険金をお支払いするまでには一定の日数を要していました。しかし、窓口での手続きがデジタル化されたことで、早ければ翌営業日に保険金をお支払いすることが可能となりました。
当社のコアビジネスのデジタル化により、サービス内容の向上やお客さまの満足度が上がった一つの事例であると思います。
――IT活用においては、CX向上などの経営課題にいかにITを役立てていくかがテーマとなっているのでしょうか?
早瀬
そうですね。当社ではDXをやること自体は目的となっていません。CXを向上させるためにDXが必要であるという考え方です。
先ほどの例のような紙の削減や正確性の向上を進めるデジタル化により、お客さまとやり取りする当社のコンサルタントやコールセンター、事務センターの業務を効率化させています。
当社では定期的にES(エンゲージメントスコア)を社員アンケートに基づいて算出しているのですが、デジタル活用で業務負荷が低減する等でその数値が向上しました。もちろん、これはデジタル化の効果だけではないと思いますが、デジタル化により従業員の満足度向上にもつながっていると言えるのではないでしょうか。
――自律的にタスクを遂行するAIシステム、あるいは人間と知的な対話を行うAI=「AIエージェント」が目覚ましい進化を遂げています。AIエージェントの普及に伴い、分かりやすく変化がみられる部分はどのようなところだとお考えですか?
森
AIエージェントは私たちが自然言語で命令するだけで、自ら調査したり、計画を立てたり、実行のためのリソースを集めて、場合によっては物も作ったりします。
やはり多くは自動化や効率化のところで価値を発揮すると思われますが、先ほど早瀬さんもおっしゃった「CXの重要性」と同じく、我々もクライアント企業と生活者の間で役に立つAIエージェントが必要ではないかと考えています。
たとえば、クライアント企業が生活者の理解を深められる、ペルソナとして振る舞うAIエージェントだったり、あるいは生活者が企業の理解を深められる、企業やブランドのパーパス、フィロソフィーを学んだAIエージェントによる接客のイメージです。
森
たとえば当社のグループ企業である大広では、DDDAIというシステムを提供しています。DDDAIでは企業やブランドのポリシーやパーパス、あるいは接客における理念などを学び、生活者とコミュニケーションをしてくれるサービスです。
生活者は単に「チャットボットを利用できて便利だな」というだけではなく、「企業やブランドが何を大切にしているか」といった部分まで体験できます。
早瀬
保険事業は金銭を取り扱うものであり、公共性・社会的責任のあるビジネスです。ハルシネーション(AIが事実にもとづかない情報や、実際には存在しない情報を生成してしまう現象)のようなAIの誤りは許されにくいといえるでしょう。誤りの許容度をどのように決めていくかにもよりますが、仮に一つもミスをしてはいけないということであれば、まだコア業務には・・・と感じます。
一方で、直接は関係しない周辺業務や、責任がある業務でも人がきちんと確認するといった制約下であれば、AIエージェントを活用できる領域はあると思います。
――システム開発の領域でもAIエージェントの活用は進んでいますか?
森
これまで「エンジニアはコードを書いているときに分からないことをAIに聞く」という使い方だったのが、ここ数ヶ月ぐらいで「AIが作成したコードをエンジニアが時々直す」という使い方に変わっている印象があります。ひとつの山を越えたのではないでしょうか。
ドゥック
森様のおっしゃる変化は非常に興味深いですよね。しかしこれには懸念される点もあります。恐ろしいのは、シニアクラスのエンジニアであればAIの誤りを自分で判断できるのですが、新卒やジュニアクラスではその判断が難しいということです。
よく分からないままAIに投げて仕事を終わらせるのは非常に危険だと感じています。自分がコミットした仕事は、自分で責任を持って説明できるようにルールを定めるべきですね。
早瀬
そうですね。現状ではAIは簡単にわかるような誤りもしますが、これが急速に進化していくとそのような間違いは減っていくことが期待できます。経験が豊富な方であれば
高度な誤りにも気付くことができ適切に使うことができるけれども、そうでない人は利用に制限を持たせる必要が出てくるという状況も考えられます。
ただ、もしAIがシステム開発で求められるテストまで実施できるようになるとすれば、「テストを通ったコードであり信頼できる」という判断とすることも考えられます。AIが生成した高度で複雑なコードについて、人はその内容がわからないかも知れないけれども、要件に対して設定したテストをクリアしているので品質は担保されていると考えて受け入れる、ということですね。
すぐにそのような世界は来ないかも知れませんが、それが実現したと仮定すると、人の役割は要件をきちんと定め、テストが適切な範囲をカバーできているかをチェックするといったことになるのではないでしょうか。
森
これは重要なポイントですね。これまでシステム開発においては、開発やテストに時間がかかることが予想されるがゆえに、要件定義にはあまり時間をかけられないケースが少なくありませんでした。しかし、開発やテストをAIに任せられれば、より要件定義に時間が割けられるようになります。
時間を確保できれば、お客さまとの会話も増やせます。よりよいシステムを作れるようになるのではないでしょうか。
――お二人が思う、今後のAIを使った業務の展望についてもお伺いできますでしょうか?
早瀬
まず目の前のこととして押さえておかないといけないのが、まだまだAIは間違えますし、人も介在しなければなりません。当社には古いITシステムも残っていて、データの整理もしないといけない状況です。単純作業を含めた人手も多くかかっています。まずはこれらを解決することですね。その先に自動化の進んだITがあると考えています。
当社には幅広い地域や年齢層のお客さまがいらっしゃいます。特にご高齢の方であれば「ITやデジタルは苦手なんじゃないか」という先入観を持ちがちですが、今やスマートフォンは普及が進んでいます。
そう考えると、果たして郵便局の支局に足を運んでいただくのが良いのか、こちらから訪問すべきなのか、あるいはオンラインで完結させた方がいいのかなど、さまざまな選択肢があることに気づきます。
このように、デジタル化を進める上では、お客様自身の変化も捉えていかなければと考えています。
ただ、システムを作るのにも時間がかかりますから、仕込みをする時期とリリースできる時期のギャップにより変化に遅れてしまうこともありえますね。アジリティ高くIT投資ができるか、いかにスピードを上げられるかというのを重要視すべきだと考えています。
森
AIを使うという話は、自動化や効率化の話に目が向きがちですが、より大きな視点で捉えるべきです。
人間がシステムの中に組み込まれ、相互作用を行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という捉え方があります。このループはより大きくあるべきですね。
たとえばシステム開発においてはIT部門だけでなく他の部署を巻き込み、会社全体の全体最適ということを踏まえたループを作成するといったことが考えられます。
生活者を含んだ「生活者・イン・ザ・ループ」のようなアプローチもあるはずです。
単に成果物をチェックするためにループに参加するのではなく、参加により参加者の方の理解が深まったり、コラボレーションが進んだり、それによって創造性が広がっていく形でループを生み出せるとよいと感じました。
ドゥック
お二方のお話を伺い、AI技術の進化がもたらす変革の大きさと、それに対する私たちIT企業の責任を改めて認識しました。システムインテグレーターとして、私たちは単に技術を提供するだけでなく、その価値を顧客に分かりやすく伝えたり、共に人材を育てたり、未来を創造していく役割を担うべきだと感じています。
今後生成AIを活用したSaaSの提供を通じて、お客様の課題解決に貢献できるよう尽力していきます。
――最後に、Tokyo TechiesのようなITコンサルティング・開発企業にご期待されることは?
早瀬
一つは、やはりレガシーシステムの刷新ですね。
金融業界には金融IT協会(FITA)という組織があるのですが、そこで最近始めようとしているのが、レガシーシステムのマイグレーションについてのノウハウをためていくという取り組みです。そういったところにご協力いただけるとよいですね。
森
Tokyo Techiesさんは、ミッションクリティカルなシステム(基幹業務システムなど企業・組織の業務遂行に必要不可欠な要素やシステム)をやられていて、様々な要求がせめぎ合う現場にいると思っています。
AIや開発方法論の進化を取り入れていくと同時に、レガシーシステムの開発で必要なことも理解されている。
両者を統合して実現するための手法を展開していただけると、さらに頼れる存在になると思っていまして、期待しています。
本日はありがとうございました。
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今回の鼎談では、「AIエージェント」がもたらす未来のIT像について、業界を牽引するお二人のリーダーから貴重な洞察をいただきました。
自律的にタスクを遂行し、人間と知的に対話するAIエージェントが社会に与える影響、そして我々ITプロフェッショナルがどう向き合うべきか、多くの気づきを得る機会となりました。
システム開発における「要件定義」の重要性がAIの進化と共に高まるという森様の指摘には、プロジェクトを率いる立場として深く共感しました。AIが開発やテストを担う時代において、人間の役割は“本質的な課題の解決”や“創造的な価値の創出”へとシフトしていきます。そうした変革を先導するには、より精緻な要件定義が不可欠であり、そこに私たちIT企業の新たな使命があると感じます。
早瀬様からは、大企業におけるDXの最前線とその成果、また金融分野におけるAI活用の倫理的・技術的課題について具体的な事例をご共有いただきました。AIがもたらす革新とシステムの安全性との間にある緊張感を改めて認識し、信頼性の確保が我々の最重要課題であることを再確認しました。
本鼎談を通じて、AIの進化を単なる効率化ではなく「人間中心」の視点から活用する重要性を強く認識しました。テクノロジーは人間の幸福と社会の発展に貢献してこそ、その真価を発揮します。
Tokyo Techiesは、今回の洞察を胸に、ITを通じた社会課題の解決と、AIと人間が協調する未来社会の実現に貢献してまいります。
Tokyo Techiesでは、AIをはじめとする先端テクノロジーと豊富な業界知見を活かし、企業のDX推進を包括的にご支援しています。
要件定義から設計・開発、運用まで、一貫したITコンサルティングと開発支援を通じて、お客様のビジネスに「本質的な価値」をもたらすことを目指します。
AIエージェントや業務自動化、セキュリティ強化など、貴社の課題に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。
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